
前々から読もうと思って積ん読してたのを読んでみた。
SF御三家の筒井康隆氏の小説。
かなり前の小説だが、数年前にアメトークの読書芸人か何かで紹介されて結構話題になったらしい。
(ちなみに自分はそれより前から積ん読してました)
あらすじ
世界から言葉が1文字消えていく。消えた言葉の概念も消える。
例えば「あ」が消えると、小説内でも「あ」の文字を使えなくなるし、「あ」の関連する単語や概念も消える。
「あ」が消えると夫婦関係の「愛」が消え、相手のことを「あなた」と呼べなくなる。という具合。
話が進むにつれ、どんどん文字が消えていき、表現や世界観が物凄いことになっていく。
感想
発想が面白い
単純に発想が面白い。ただ、特別に物凄い発想なのかと考えてみると、似たような斬新な発想って意外と誰でもできるとは思う。というか誰でも一度はしたことがあるだろう。
しかしながら、それをしっかりと書ききってしまうところが凄まじいし、当たり前なのだろうが構成がしっかりできてて関心する。
「あ」を一切使ってないのか、後から絶対確認してるだろうしその作業だけでもダルそう。
序盤~中盤はほとんど違和感なく進むのが本当に驚くし、ついつい面倒くさい確認もしてしまう。
読み返すほど面白い訳ではない
筒井康隆の語彙力やべー!!って思う反面、だからどうなんだって気も半分くらいはある。
なんというか、お手玉を4個くらいでポンポン上手に回すのを見せられるような感じ。
「いや、まあ、凄いけどさ、だから何?」みたいなところは少なからずある。
話が進むにつれて、どんどん言語が消えるので前のページを読み直したり確認したりしたくなるのだが、正直そこまでするほどに面白い話ではない。
何てことない話で淡々と物語は進んでいくし、そういう意味では面白いのかどうかよく分からない部分もある。
タイトルの回収がオシャレすぎw
個人的にこの小説で一番好きなシーン、というか印象に残ったフレーズは、タイトルの回収場面である。
そもそもなぜこの内容で「残像に口紅を」なのか?意味が分からない。意味などないと思えるのだが、ちゃんと意味がある。
一番最初に末娘の存在が消えるわけだが、彼女はまだ高校生で化粧すらまともにした姿を見せたことがなかった。
残像がまだ残っている。残像に、、、口紅、、、を。 的な。
『いや、タイトルにもスゲーちゃんと意味あんのかよ!』と、この場面は思わず吹いてしまった。
一見すると男性に見える表紙の人物は末娘なのだろう。
ちゃんと口紅しているのも芸が細かくて好き。
総括
総合評価をすると、他に類を見ない作風なのは間違いないのだが、実験的だと言われているように、内容が凄い面白いわけではないので何ともいえないところがある。
まあ、こういう小説もあるんだなという意味では読んだ方が良い気はするけど、読んだからといって得に何かに活かせるような感じもない。
感動するとか、読後感が凄いとか、そういう類の作品ではない。
繰り返しになるが、よほど作者が好きな人は別として、基本的にはそこまで凄い楽しめるような内容ではない。
個人的には普通にストーリーのある話を普通に読んだほうが普通に楽しめるので、仮に似たような実験的小説をまた読みたいかと聞かれたら答えはノーだろう。
しばらくはもうこういう類のものは別に読まなくても良い。
が、やっぱり凄いのは凄いので、読んだほうが良いとも思う。
「おすすめなのか微妙なのか結局どっちなんだよ!」って自分でもツッコミたくなるが、要はそういう小説なのである。
ただ普段ほとんど小説を読まない人は読まないほうが良いだろう。
ある意味で小説偏差値を問われるような作品でもあるといえるだろう。