
芥川賞を受賞した「推し、燃ゆ」という小説を読んだのでレビューを書きます。
あらすじ
特定の男性アイドルを推す女子高生が主人公である日、推しが女性に暴行して炎上するところから始まります。
オタク文化、現代社会の生きにくさなどもテーマとなってます。
感想
ただのオタクの話ではなかった
序盤はいわゆるキモヲタの話で、自分の好きなアイドルが一般女性だかに手を出したとかで炎上し、オタクどもがSNSでワイワイ騒ぐという現代のオタク文化を丁寧に表現します。
主人公の女の子がアイドルヲタクなので、序盤はほとんどヲタクあるあるみたいな話で、ぼくのようなオタク文化に疎い人間からすると、少し置いてきぼりをくらいます。
序盤~中盤は「そういうものなのか。」程度に読み進めていました。
オタクにはどんな種類のオタクがいるのかとか、推しを推すとはそもそもどういう心境なのか、とか、そういう類の内容は序盤~中盤まで続きますが、まあ概ねヲタクの実態は想像通りで特別にオタクに対して知識も興味もないぼくからしてもそんなもんだろう程度でした。
この時点では、この小説「あ、これはガチのオタクがオタクを見て楽しむ感じか..。これはハズレだな」と思ったんだですが、中盤から急に趣旨が変わってきました。
まず読んでて、確実にオタクが推しに没頭するあまりに闇落ちする話になるんだろうと予想してたんですが、そんな単純な話ではありませんでした。
発達障害だと判明する
話が中盤くらいに入ると、急に彼女の昔ばなしになり、小学生の頃から勉強が苦手でどれだけやっても漢字が覚えれなかったような話が語られます。
小テストか何かで、最低限の点数を取れないと居残りになり、毎日毎日ノートに同じ漢字を延々と書き写してもまったく覚えることができずに居残りになる。
クラスで一番アホそうな子と2人だけ居残りになって、その子ですらやがて居残りにならなくなるけど、自分だけはどんなに書き写しても覚えれなくて1年の最後まで居残りが続いたと..。
「ああ、そういうことなのね」と、ぼくの中では一気に話の趣旨が変わってきたのと、理解できないモヤが晴れた感覚が出てきました。
途端にバイト中の描写、家族との関係、ちょっとした会話、そのすべてが何か切なくも愛しくも映ります。
一気に映画フォレスト・ガンプのような感動すら覚えてきました。
最後は前向きに生きようという感じで終わるけど..
話のオチとしては、推しのアイドルが事件をきっかけに人気が落ちてしまい、結果的に芸能界を引退してしまうことになり、推しに人生のすべてを捧げていた主人公が途方に暮れていくという流れ。
ハッキリと何か出来事が起きて、気持ち切り替えて明日から頑張って生きようとか、そういう単純な話でもなく最後は推しがいなくなった世界で頑張って生きようというような終わり方にも取れるが、彼女のような人にとってこの世界の現実はそう甘い世界ではないだろう。
総括
普通の人でも推しはいるし、オタクだって星の数ほどいるわけですが、この話は主人公が不幸になるのが見えているだけに切ない。
「ちょっとおかしい人」の度合いは難しく「障がい」の度合いも判断基準が際どいところがある。
同じような状況なのに、ある者は国や家族から支援を受けれる傍らで、ある者は家族からも国からも見放されているような現状がある。
この話はアイドルなんて熱心に追っかけても末路はそんなものだし、ほどほどに趣味の範囲でね。とかそういう単純な話ではない。
彼女のように推しが生きがいのような人生の人は世の中たくさんいるのだろうが、普通に勉強もできて仕事ができるような人だと話は全然変わってくるのである。
最後の終わり方も一見するとこの先は明るい未来が..とも想像したくなるのだけど、この小説内で書かれている情報だけだと彼女は確実にこの先も上手くはいかない状況なのである。根本的な問題が何も解決されていないからだ。
特に作中の描写だと、家族から理解をされていないというのは辛いところである。それどころか両親からも圧をかけられている。彼女の状況だと就活なんてしている場合ではない。
この物語は日常生活すら1人で送ることが難しい発達障害や精神病の問題ともリンクしている。まさに現代社会の闇そのものなのである。
一見すると成長物語のようにも見えるが、実は作中でまったく成長はしていないし、彼女の抱えている本質的な問題は解決されていないどころか改善される兆しすらなく終わっており、ぼくにはこの話は完全なるバッドエンドに写った。
さすがは芥川賞作品。ただのヲタクをテーマにした話のようで深いテーマに繋がって最後はしっかりと考えさせれてしまった。
ヲタクに偏見を持つ人にこそ読んで欲しい作品ですね。