俺の残機を投下します小説 読んだ感想【書籍レビュー】

 

山田悠介の最新作「俺の残機を投下します」を読んだので書評していきます。

この小説は本屋で山積みされていたので気になっていました。

そのときに古本コーナーで買って読んだ小説「魔界の塔」と偶然同じ作者の小説で、最新作かつ人気(どの本屋でも山積みコーナー有り)っぽく、さらに魔界の塔と同じくゲーマーが主人公だということで気になっていました。

魔界の塔のレビューはこちら

山田悠介の魔界の塔を読んだ感想 【書籍レビュー】

2020年7月23日

 

あらすじ

プロゲーマーの一輝は30歳を迎える直前。最近は大会でも結果が出せずに落ちぶれていた。

プロゲーマーの事務所に所属する一輝はこのままでは生活ができないためバイトを始める。

ある日、一輝の前に「残機」を名乗る自分そっくりな3人組に遭遇する。

残機は一輝の分身のような存在で一輝が死ねば一輝の身代わりとなり死んでしまうという。

そんな話を信じられない一輝だったが、自分に見た目がそっくりな残機を利用するために一輝は残機たちと共に過ごしていくうちに事件が起こる…。

 

感想

いくつかポイントをピックアップしていきます。

主人公がクズ野郎

魔界の塔もそうでしたが、主人公がなかなかのクズです。
うまいのが最初は善人っぽい感じで描いているのですが、話が進むほどに実はクズだと判明します。
自分の分身だという残機を利用しようとしたり、別れた嫁に養育費を支払っていなかったりと序盤からクズっぷりを発揮します。
個人的には主人公のクズっぷりには結構感情移入しやすかったです。

 

プロゲーマーの世界観

魔界の塔と比較すると、何より一番大きく変わった点は、しっかりとテーマの世界観を描けているところです。

魔界の塔でも主人公はゲーマーでしたが、とにかくゲームの描写の情報量が薄っぺらくて説明書でも読んでいるかのような簡単な内容でしたが、本作ではしっかりとプロゲーマーの世界が描けています。

詳しい人からどう評価されるのか分かりませんが、ワールドカップとか、3Dゲームとか、上手く架空の話をリアルっぽく描けています。

時代設定が2030年くらいで出版時よりも10年くらい先の話というのも上手く架空の設定を取り込めている要因です。

 

残機の設定がよくわからん

残機がドッペルゲンガー的なものだというのは分かりますが、3人出てきた意味も特にないですし、本体+残機の概念が全員にあるみたいな設定が謎でした。

少なくとも作中には一輝の残機3体と、一輝の息子の残機が1体登場してきます。一番最後の空港のシーンでは嫁の結衣の残機も登場しています。

ということは、梅本の残機やもふもふの残機もこの世界にはいるという設定だと思うのですが、そうなると、この世界では自殺とか殺人とかしてもガンガン未遂で終わったりすると思うんですが、それを不思議がる人がいないのも噂ひとつないのも説得力がないです。何かいろいろ残機の設定がユルユルのように感じます。

主人公だけが特異体質でとか、その家系だけがとかなら分かるんですが..この世界には残機がいたるところに存在しているという設定なのに、世の中的にそういうことが話題に上がっているわけでもないし、一輝自身もそんな噂すら残機に会うまで聞いたこともなかったという具合なので、やっぱりちょっと考えると違和感があるような…。

まあ細かいところにいちいち突っこむなよみたいな事でもあるかもしれませんが、いわゆるSF警察とかそういう以前の問題で、残機はこの話のメインの存在にも関わらず細部がガバガバだと気になるところではありました..。

 

先の読める展開

「王道」といえば王道なんでしょうけど、最後まで特に引き込まれるような出来事や事件が起こりません。

すべてが想定できる範疇で起こる出来事なので、そういう意味ではまだ魔界の塔の方が先の展開が読めませでした。

残機は最終的に裏切ったり、実は本体だと思っていた者が残機だった..。とか、そういう展開もいっさいありませんでした。

 

PVから分かる評価

 

先程PVを見て驚きました。完成度にではなくて、配信から1ヶ月程度で130万回以上再生させていることにです。

あとコメント欄から察するに固定のファン層が強いです。

声優とかボカロとか小説の面白さとは無関係なところで盛り上がっています。

こういう作品は内容がどれだけ悪くても出せばとりあえず10万部とか軽く売れてしまうので本屋で山積みコーナーがあったことにも納得です。

人気作家なのは分かるのですが、最初からこのPVのコメ欄とか確認してたら自分は読んでなかったと思います..。

 

総評

一言で言うと、小説的には微妙でした。

展開が面白くないですし、特に驚くような事も最後まで起こりません。人物の心理描写や会話など、何気ない日常もすべて並程度。

ただこの作家は毎回そうだと思うのですが、舞台設定やキャラクター設定が上手いので表面的な面白さは凄いあります。
本作でいえばプロゲーマーの何気ないやり取りだったり、仕事内容だったりかなり調べていると思うのでリアルです。(実際のプロはどうなのかは別として)
若者人気もうなずけます。

ただこの表面的な面白さというのは、いわばラノベで萌え萌えムチムチギャルさえ出しておけば、あとは異世界でよろしくやってくれれば中高生にはそれなりにウケる。という法則でありそれっぽい話とキャラクターがあれば若者は好む傾向が強まります。ティックトックみたいなものです。

 

本作でいう残機みたいな話だと、テイルズオブジアビスというゲームを思い出しました。超良ゲーです。

ジアビスでは「レプリカ」という概念で主人公が実は偽物だった…。という衝撃展開が途中で判明して凄いワクワクするのですが、そういう類のワクワク感や裏切りは「俺の残機を投下します」にはなかったのが残念でした。

山田悠介氏の小説はまだ2作しか読んでいませんが、全部こんな感じなんでしょうかね。

作品一覧を見てるとタイトル的にはいくつか気になる作品はあるのですが、少しぼくには作風が合わないかもしれません..。